家族信託のメリット、デメリット、注意点のまとめ
2021/5/15
2021/05/24
Contents
1.はじめに
家族信託には、認知症対策をすることができたり、遺言の代わりになったりといった機能があります。家族信託以外にも、認知症対策としては、成年後見制度がありますし、資産承継については、遺言や生前贈与などといった制度もあります。
そこで、今回は家族信託を選択するために参考になるよう、家族信託のメリット・デメリットを解説していきます。
2.家族信託の6つのメリット
(1)認知症などによる資産の凍結を回避することができる
認知症になって判断能力を無くしてしまうと、不動産の売買、アパートなどの収益物件の管理、預貯金の解約などの場面で問題が発生します。いわゆる「資産の凍結」の問題です。
例えば、認知症のため介護施設に入所することになり、空き家になった自宅を売って施設費に充てたいというお子様からのご相談をお受けすることがあります。
しかし、本人の判断能力がなければ、売買契約をすることができません。この場合、お子様が成年後見人になって本人に代わって売却することになりますが、成年後見制度は必ずしもお子様が選任されない場合もありますし、売却が終わっても本人が亡くなるまで成年後見人を続けなければならないなど親族の負担が大きい面があります。
そこで、本人がお元気な内に自宅を家族信託でお子様の名義に変えておくことで、いざというときにスムーズに売却をすることができます。
(2)本人の意向に沿った財産管理を行うことができる
成年後見制度を使っても財産管理はできるのですが、本人の財産を保守的に守ることに重きをおくことになります。したがって、古くなったアパートをいくつか売ってマンションを購入するというような資産の組み換えは成年後見制度ではできません。
一方、家族信託ではあらかじめこのようなことを予定して信託契約に明記しておくことで、資産の組み換えにも対応することができます。
(3)遺言と同じような機能がある
家族信託では、本人(委託者兼受益者)が亡くなった場合、信託は終了させて信託されていた財産の承継先まで決めておくことができます。また、信託は終了させずに次に受益者となる者を決めておくこともできます。これを「遺言代用信託」などと呼ばれています。
ただし、遺言の代替機能があるのは、信託された財産についてのみですので、信託されていない財産の帰属先は遺言で決めなくてはなりません。
(4)複数の世代への資産承継を決めておくことができる
遺言の場合、本人から妻、妻から子へと財産の承継順を決めようとしても、妻から子への承継については本人の遺言で決めることができず、妻が遺言をすることになります。しかし、家族信託は本人が死亡したら妻が受益者になり、妻が死亡したら子が受益者となるというように決めておくことができます。このような信託を「受益者連続型信託」とか「後継ぎ遺贈型信託」などといいます。妻が既に認知症で遺言を書けないといった場合にはとても有効です。
(5)不動産などの共有問題の対策になる
相続などの理由により、アパートなどの収益物件を共有している場合、共有者全員で相談しながらアパートの管理をしていくことになります。しかし、それでは面倒ですし、意見が異なった場合は意思決定が難しくなってしまいます。そこで、家族信託を利用して、共有者全員がその共有持分を一人に預けてスムーズに管理をしてもらうことができます。
(6)倒産隔離機能がある
いわゆるおひとり様のケースで、親戚の者などに財産管理をしてもらおうと、いきなり大金を預けてしまうことがあります。これでは、預けた財産と預かった方の財産と混ざってしまいます。家族信託では、信託された財産は、託された方(受託者)の財産とは別々で管理され、さらに、受託者が信託とは関係ないところで債務を負っていたとしても、債権者は信託財産に強制執行することはできません。
3.家族信託の5つのデメリット
(1)損益通算ができなくなる
信託から生じた不動産所得の損失は、生じなかったものとみなされます。例えば、アパートAとアパートBを2棟持っている方が、Aを信託し、Bを信託しなかった場合、Aの赤字をBの黒字から差し引くことができなくなります。
(2)毎年税務署に申告をすることになる
受託者は毎年1月31日までに信託計算書を税務署に提出することになります。ただし、信託に関する収益の額の合計額が3万円以下であるときは、信託計算書の提出は不要です。さらに受益者は確定申告(毎年3月15日まで)をする際に信託計算書を提出する必要があります。
(3)節税効果は基本的にはない
「家族信託をすると節税効果がありますか?」という質問がよくありますが、基本的に節税効果はありません。信託財産で不動産を購入するなど資産の組み換えをした場合に、節税効果が出る場合はあります。
(4)長い間家族が契約に縛られることになる
家族信託がスタートすれば、受託者は財産管理の責任を負うことになります。委託者死亡後も継続する受益者連続型信託の場合は、数十年継続する場合もあります。
(5)専門家に依頼した場合費用がかかる
家族信託を専門家に依頼した場合、一般的に①コンサルティング報酬、②契約書作成費用+公証人報酬、③(不動産を信託財産にした場合)登記費用がかかります。
詳しくは「家族信託の費用の相場はどれくらい?専門家に依頼した場合の費用を解説。」の記事をご参照ください。
4.家族信託を検討する上での注意点
(1) 本人の判断能力が必要
家族信託を行うには、制度について理解して、信託契約書で色々なことを決めなくてはなりません。そのため、他の制度に比べて必要となる判断能力のレベルが高いと言えます。シンプルな遺言はできるけれども家族信託は無理というような場合も考えられます。
(2) 適任者がいないとできない
家族信託では、大切な財産を託すわけですから、信頼できる親族が必要不可欠です。適任者がいない場合は、他の制度や信託銀行などの商事信託を検討することになります。
(3) 家族信託以外の制度も組み合わせる必要がある
信託した財産については、遺言代用機能を使うことができますが、それ以外の財産については遺言が必要です。また、家族信託には身上監護についての権限がありませんので、これについては任意後見契約をしておく必要があります。
(4) 信託できない財産がある
農地は家族信託を行うには農地法の許可が必要です。また、銀行預金をそのまま信託することはできません。この場合は、お金を引き出して受託者へ送金する必要があります。
(5) 信託契約書等を作りこむ必要性がある
誰を受託者にして、どの財産を信託するのか、など家族信託の設計ができたら、それを信託契約書(遺言信託なら遺言書、自己信託なら自己信託公正証書)に落とし込まなければなりません。
(6) 家族信託を扱っている専門家は少ない
士業の中では司法書士が家族信託に多く関わっていますが、その司法書士の中でも家族信託を扱っているのは少数派ですので、ホームページなどで確認してから相談に行きましょう。
(7) 家族の理解を得る必要性がある
家族信託は、家族全員の理解があった方がよいです。例えば、父の財産を長男が受託者になって管理していた場合、受託者である長男の名義になっていますので、家族信託をよく知らない二男からすれば、長男が勝手に財産を自分名義にしたと思い、不信感を募らせて後々のトラブルになることも考えられます。この場合、どうしても二男の理解がなければ家族信託できないわけではありませんが、可能な限り理解を得る努力をしておいた方がよいと言えます。
5.まとめ
今回は家族信託のメリット・デメリットについて説明いたしました。制度を俯瞰できるよう簡潔な説明に留めております。デメリットについては、これがあるから家族信託をしないというほどのものではないかと思います。半分は税金に関わるものですので、家族信託に精通した税理士に相談されるとよいでしょう。