子のいない夫婦の場合の家族信託の活用法

2021/8/9

2021/08/27

この記事の監修

齊藤潔

さいとう司法書士・行政書士事務所
司法書士・行政書士・民事信託士
齊藤潔

開業以来、一貫して相続・成年後見など家族に関する法務に携わる。
家族信託や遺言など生前からの対策が必要な方への支援を行っている。

Contents

1.はじめに

子のいない夫婦の場合、配偶者(夫または妻)だけでなく、(両親も亡くなっていれば)亡くなった方の兄弟姉妹も相続人になりますので、遺言などの対策が必要であるということはご存じの方も多いのではないかと思います。

実際に夫婦そろって遺言をしたいというご相談は多いです。

しかし、対策が必要であったのに何もしないまま夫または妻が亡くなってしまったというご相談もまだまだ多いように感じます。そこで、今回は子のいない夫婦の場合の家族信託の活用法を他の制度(遺言・成年後見)と比較もしながら解説していきます。

2.子のいない夫婦の法的リスク

(1)亡くなった配偶者の兄弟姉妹が相続人から法定相続分を要求されるリスクがある

配偶者は常に相続人になりますが、第1順位の子がいない場合、第2順位の直系尊属(両親、祖父母など)も既に他界していれば、第3順位の兄弟姉妹が法定相続人になります。何も対策をしていなければ、残された配偶者はこの兄弟姉妹と遺産分割協議をしなければならなくなります。兄弟姉妹には4分の1の法定相続分がありますので、これに相当する財産を要求される可能性があります。亡夫が他の兄弟よりも多く両親から財産を相続していた場合はまだ理解できますが、そうでない場合にまで亡夫の兄弟に遺産を分けるというのは納得のいかないという人が多いのではないでしょうか。

(2)配偶者(夫または妻)が死亡したときに残された配偶者が認知症になっているリスクがある

残された配偶者が既に認知症になってしまっていると遺産分割協議をすることができず、何も対策をしていなければ、そのままでは相続手続きを進めることができません。夫が亡くなったが妻が認知症で判断能力がないために、成年後見人を付けないと遺産分割協議ができないというのはよくあるパターンです。

(3)亡くなる順番によって最終の相続人が変わってしまうリスクがある

例えば、夫婦で夫の姪A(亡なくなった弟の子)を可愛がっていて自分たちが亡くなった後の財産はすべてこの姪Aに相続させたいという場合を考えてみましょう。夫が亡くなり、妻が全財産を相続し、その後妻が亡くなった場合は、妻の兄弟姉妹(亡くなっていれば甥姪)が相続人になりますので、何も対策をしていなければ、夫の親族である姪Aには相続権がないことになります。

3.対策方法

(1)遺言

子のいない夫婦の場合、遺言をしておくことが必要です。夫が亡くなった場合、妻が亡夫の兄弟姉妹から法定相続分を主張されるということは結構あります。兄弟姉妹側にも事情がありますので、楽観は禁物です。

遺言をしておけば兄弟姉妹には権利がなくなりますので、遺産分割協議をする必要はありません。遺言執行者を夫または妻以外の第三者(専門家)にしておけば認知症になっていたとしてもスムーズに相続手続きを進めることができます。

遺言をする場合は、さしたる財産がなくても夫婦それぞれが遺言をしておく必要があります。また、先に亡くなった場合は夫または妻が相続するとして、後に亡くなった場合の相続人も指定しておく必要があります。

子のない夫婦の場合、まずお勧めしたいのが、この遺言書を作成するということです。全財産を夫または妻に相続させるという遺言であれば比較的簡単に作れます。個別の事情はあるでしょうが、相応の年齢になったらなどと思わず、可能ならばすぐに行っておくことをお勧めいたします。

(2)成年後見(任意後見)

認知症になった場合の財産管理に支障が出ないように任意後見契約をしておくことができます。

夫婦で任意後見契約をしておいて、夫(または妻)が認知症になった場合は妻(または夫)が任意後見人になれるようにしておきます。

ただし、夫婦の一方が認知症等になったときに、もう一方も高齢でしょうから、任意後見人を務められるかという問題があります。この問題は、予備の候補者(甥・姪などの親族の他、司法書士などの専門職でも可)も決めておくことで解決できます。

任意後見制度の難点は、任意後見監督人が必須になるので、その報酬がかかりますし、任意後見人も専門職の場合はダブルで報酬が発生することです。

任意後見制度の良い点は、身上保護の権限もあることです。医療、介護保険制度の利用といった生活面についてもサポートすることができます。他の制度にはない機能なので、他の制度と組み合わせて使われることも多いです。

(3)家族信託

認知症等により財産管理ができなくなった場合に備えて、親族に財産を信託して管理してもらうことができます。

例えば、夫が財産管理できなくなったときに備えて、甥に財産管理をしてもらうというような場合です。家族信託の場合、夫を「委託者」、甥を「受託者」と呼びます。夫の生存中は夫のために財産管理を行い、夫が亡くなったら妻のために財産管理をするというようにすることができます。この場合の夫または妻の地位を「受益者」と呼び、この受益者が引き継がれるタイプの信託を「受益者連続型信託」と呼んでいます。

また、家族信託には財産承継機能もありますので、夫が亡くなり、妻が亡くなった後の財産はこの甥が引き継ぐというように決めておくことができます。これにより、夫が〇〇家の財産として引き継いだものを〇〇家の誰かが引き継ぐようにしたいという要望に応えることができます。

夫が財産管理できなくなった場合は、妻も財産管理ができなくなっている可能性もありますし、アパートなどの財産管理など妻では管理できないということもあるでしょうから、甥などの親族に財産管理をしてもらう例を挙げましたが、夫よりも妻がかなり若い場合などは妻が受託者になって夫のために財産管理をするというのも可能です。

4.まとめ

遺言、任意後見、家族信託のどの制度を選択するか、もしくは組み合わせるかというのはなかなか悩ましい問題ですが、時間的な余裕があるのであれば、まずは遺言から準備しておくのがよいでしょう。

家族信託は受託者になってくれる信頼できる者がいないと行うことができませんので、親族関係を良好に保つことも重要です。

一つ一つの制度を理解するだけでも大変ですから、お悩みの場合は専門家に相談することをお勧めいたします。

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