銀行の家族信託とは?通常の家族信託との違い

2021/12/19

2021/12/20

この記事の監修

齊藤潔

さいとう司法書士・行政書士事務所
司法書士・行政書士・民事信託士
齊藤潔

開業以来、一貫して相続・成年後見など家族に関する法務に携わる。
家族信託や遺言など生前からの対策が必要な方への支援を行っている。

Contents

1.はじめに

高齢人口が急速に増加している昨今、家族信託という制度が注目を集めています。法律の専門家が行っている家族信託の他に、銀行にも家族信託と銘を打ったサービスがあるため、銀行の利用を検討している人もいるでしょう。

しかし、本来の家族信託と銀行の家族信託では特徴が異なります。通常の家族信託と銀行の家族信託の違いを知っておかないと「思っていたのと違う」ということになってしまうかもしれません。当記事では銀行の家族信託の特徴を解説します。銀行の家族信託と通常の家族信託のどちらを利用するのか、参考にしてみてください。

2.銀行の家族信託には2種類ある

銀行の家族信託には2種類あります。

1つは、生前の認知症対策や相続発生後の資産承継など通常の家族信託と似たような機能を持つ「信託商品」です。ここではこれを「銀行の家族信託(商品)」と呼びます。

もう一つは、通常の家族信託をサポートする「コンサルティング」で、ここではこれを「銀行の家族信託(コンサル)」と呼びます。前者は銀行が受託者になり、後者は家族が受託者になります。

3.「銀行の家族信託(商品)」は預金に近い信託商品

家族信託をネット検索してみると、さまざまな銀行で家族信託に似た商品があることが確認できます。「家族信託」という言葉の普及に伴い、同じような機能のある商品に「家族信託」という言葉を使っているものもあります。

銀行の家族信託(商品)は、通常の家族信託と同様、「信託法」という法律に基づいて行われているものですが、家族ではなく、銀行が受託者になるものです。このような信託を、一般的には「家族信託」ではなく「商事信託」と呼びますが、この記事では便宜上、『銀行の家族信託(商品)』と呼びます。なお、ここでいう銀行とは、信託銀行になります。

この信託商品では商品設計が固まっていて、通帳が発行されるなど預金をするのと同じような感覚で利用できます。また、銀行の家族信託(商品)はそれぞれの銀行が独自に行っている取り組みですので、対応しているサービスは各銀行によって違いがあります。

一般的に、銀行の家族信託(商品)は、以下のような機能があります。ただし、商品によって一部の機能しかない場合もありますので、よく商品の説明を確認してください。

  • 条件が整ったらすぐに資金を受け取れる
  • 元本が保証される
  • 家族が浪費するのを防止する

(1)条件が整ったらすぐに資金を受け取れる

銀行に預金しているお金は、通常本人の確認なしに引き下ろしたりすることはできません。そのため、預金の管理者に認知的問題が発生したり、死亡したりしてしまうと、家族でも引き出すことは難しくなります。

しかし、銀行の家族信託商品を利用すれば、本人が下ろせなくなっても、家族がお金の引き出しを簡単な手続きで、スピーディーに行うことができます。

(2)元本が保証される

銀行の家族信託(商品)を利用すると、受託者は銀行となり、銀行が委託者の財産を管理します。そのため、信託した金銭が万が一、元本割れすることがあれば銀行が補填してくれます。

銀行に預けていたお金(元本)が保証されるという面は、現在ある財産を守るという観点から考えれば一考の余地があるでしょう。

(3)家族が浪費するのを防止する

親から子どもに財産の管理運用を任せる通常の家族信託では、子どもによる浪費が問題になる事例があります。

銀行の家族信託(商品)は、医療費、介護費など親の利益にかかわる事柄以外にお金の引き出しを認めていないことが多く、お金の使途のチェックがはいりますので、そのような家族信託(商品)であれば家族に財産が浪費される心配は少なくなります。

4.銀行の家族信託(商品)と通常の家族信託の違い

銀行の家族信託(商品)は銀行預金に近い性質がありますが、通常の家族信託が有している財産管理機能やを円滑に子どもや孫に引き継ぐという機能と比べると制限があることにも、触れておかなくてはなりません。

銀行の家族信託と通常の家族信託の違いとして、主に5つ挙げられます。通常の家族信託では対応できるが、銀行の家族信託(商品)では対応できないものもありますので、注意が必要です。

  • 受託者は銀行になる
  • 扱える財産は金銭のみ(不動産の管理は対象外)
  • 信託契約の中身の自由度が狭い
  • 受託者の運用の自由度が狭い
  • 通常の家族信託よりも費用が抑えられる場合がある

銀行の家族信託(商品)の利用を検討している人は、通常の家族信託との違いも確認しておきましょう。

(1)受託者は銀行になる

通常の家族信託では家族の中で財産の管理運用をする人物を決めているため、受託者は家族・親族の誰かがなります。

しかし、銀行の家族信託(商品)を利用すると銀行が受託者となります。このため、信頼できる家族等がいないという問題に対応できますし、受託者の死亡リスクがないので、通常の家族信託よりも安定性の面で優れています。

(2)不動産の管理は対象外

通常の家族信託では、信託できる財産に大きな制限はありません。金銭はもちろん、住宅などの不動産や証券なども信託できます。

一方、銀行の家族信託(商品)は金銭信託と呼ばれるものです。そのため、信託できる財産は金銭のみに制限されます。より多様な資産や財産を信託したいのであれば、通常の家族信託を利用した方がいいでしょう。

(3)信託契約の中身の自由度が狭い

通常の家族信託は内容の自由度が高く、財産を信託する人の状況によって設計しやすいというのが利点であり、強みです。

しかし、銀行の家族信託では信託契約自体が商品化されているため、委託者が望んでいるような形で信託できないケースもあります。

信託されてもきちんと金銭の管理をしてもらえるか不安なときは銀行の家族信託を検討し、ご自身のケースに合わない場合は通常の家族信託を検討してみてください。

(4)受益者の運用の自由度が狭い

通常の家族信託は「相続対策」「認知症対策」「遺言代用」「親なき後問題への対策」「遺族の生活費確保」など、さまざまな目的のために利用できます。

しかし、銀行の家族信託(商品)で、管理運用を担っているのは銀行です。銀行は原則として委託者本人の生活のために指定した家族が出金できることや、遺族の生活費や葬儀費用の捻出を主な目的としています。

定められた範囲外の目的でお金を引き出すことはできません。「子どもや孫のために財産を残したい」「財産を譲りたい」という目的で家族信託を検討している場合、銀行の家族信託では家族が自由に財産を使えないという状況が発生する可能性があるので注意しましょう。

(5)通常の家族信託よりも費用が抑えられる場合がある

銀行が行っている家族信託は、銀行ごとにサービスに違いがあり、費用も異なります。

また、通常の銀行業務とほぼ近い預金のような信託サービスであれば、費用が低額のものもあります。

たとえば、みずほ信託銀行の「安心の贈りもの」という信託商品では管理手数料、契約時や払い出しにかかる手数料、相続発生後の振込手数料などが無料で利用できます。ただし、この商品は契約者死亡時に家族が速やかに金銭を受け取れる機能はありますが、生前の医療費などの支払いをするために家族が代理で出金するような機能はありません。代理出金機能などがあるものは、それなりの信託報酬が発生しますので信託商品の内容と費用をよく調べる必要があります。

一方で、通常の家族信託は信託財産の評価額に応じて費用がかかり、最低でも30万円程度の費用がかかる傾向にあります。

詳しくは、次の記事をご参照ください。

①家族信託を専門家に依頼するケース

家族信託は契約です。そのため、契約を結ぶときに信託契約書などが必要になります。自身で作成することもできますが、素人が法的な妥当性や有効性を持たせた書類を作るのは難しく、専門家に依頼するのが無難です。しかし、専門家に対する報酬がかかることも考えなければなりません。

②自身で家族信託の手続きを行うケース

家族信託で使用する信託契約書は公正証書である必要はなく、私文書でも構いません。そのため、専門家に依頼しなくても作成することができます。

専門家に依頼しない場合は、税金や公正証書作成手数料などの実費がかかるのみです。

しかし、専門家の関与なしでは作りが甘くて後々トラブルに発展する可能性があります。また、専門家の関与がない場合には、金融機関に信託口口座を開設してもらえない場合もあります。そのため、専門家の関与なしに手続きを行うのはお勧めできません。

5.銀行の家族信託(商品)を利用するときの流れ

銀行の家族信託(商品)を利用するときの流れは、銀行によって違います。

しかし、押さえておくべきポイントは変わりません。銀行の家族信託(商品)を利用するときは次の流れを意識して、銀行と打ち合わせをしてみてください。

(1)家族信託で何を解決したいのかを明確にする

認知症による預金凍結に備えたいのか、死亡後に速やかに出金して葬儀費用を支払えるようにしたいのか、などやりたいことを明確にしましょう。

(2)銀行の家族信託(商品)の内容を吟味する

銀行の家族信託(商品)は、各銀行によって異なりますし、一つの銀行でも複数の信託商品があったりします。

銀行の公式サイトで、各銀行が扱っている家族信託(商品)の内容を確認することはできますが、自身が検討している利用の仕方ができるのか直接銀行に確かめておきましょう。

(3)銀行で商品の説明を受ける

銀行の家族信託(商品)を申し込む前に、きちんと説明を受けることになります。

(4)銀行に申し込みをする

説明を受けて納得したら銀行に信託商品の申し込みをします。

6.銀行の家族信託(コンサル)について

これは、通常の家族信託における専門家の役割(コンサルティング)を銀行が行うものですので、通常の家族信託と同じと言ってよいでしょう。契約書の作成などは銀行から紹介された専門家が行うことになります。

7.まとめ

銀行の家族信託(商品)は商品により異なりますが、委託者の判断能力が失われても家族がお金をスムーズに引き出せたり、相続発生後に速やかに家族に財産が払われたりといった機能があります。

一方で通常の家族信託ではできることが、銀行の家族信託(商品)ではその一部の機能しかなかったり、不動産は扱えないなどの制限があります。銀行の家族信託(商品)を利用するときは通常の家族信託とできることを比較して、どちらが自身の状況に適しているかを考えてみてください。

場合によっては、銀行の家族信託(商品)と通常の家族信託の両方を組み合わせて使うことも有効ですし、遺言など他の制度もありますので、判断に迷ったら専門家に相談してみるとよいでしょう。

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