家族信託と成年後見制度の違いとは?それぞれのメリット・デメリットについて

2022/3/21

2022/03/21

この記事の監修

齊藤潔

さいとう司法書士・行政書士事務所
司法書士・行政書士・民事信託士
齊藤潔

開業以来、一貫して相続・成年後見など家族に関する法務に携わる。
家族信託や遺言など生前からの対策が必要な方への支援を行っている。

Contents

1.はじめに

 家族信託は成年後見との比較で、メリットがありますと宣伝されることが多いので、家族信託があれば成年後見はいらない、家族信託は常に成年後見よりも優れているというように感じられるかも知れません。

 しかし、家族信託は必ずしも成年後見よりも優れているというわけではなく、家族信託よりも成年後見の方がよい場合もあります。また、両方とも必要な場合もあります。

 本記事では、どちらを選択するか考えるための参考になるよう、両制度を比較しながら解説していきます。

2.それぞれの制度の概要

(1)家族信託の概要

 家族信託は、財産を持っている方(委託者)がその財産の管理(運用・処分も含む)を信頼できる家族(受託者)に託す制度です。託された財産は、特定の家族(受益者)のために管理されることになります。財産を持っている方を「委託者」といい、託される人を「受託者」といいます。そして、信託財産から利益を受ける人を「受益者」といいます。

 戦前の民法では、「隠居」という制度があり、高齢になった父は生きているうちに息子などに財産を相続させることができました。家族信託は現代版の「隠居」であるということもできます。

(2)成年後見制度の概要

 一方、成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方(本人)を法的に保護し、支援するための制度です。成年後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2つがあります。

 「法定後見」は本人の判断能力が不十分になってから家庭裁判所に申し立てて、成年後見人をつけてもらう制度です。「法定後見」は、本人の判断能力の程度によって「後見」「保佐」「補助」の3つに分けられます。判断能力については、医師の診断によります。

 「任意後見」は本人が元気な内に任意後見人候補者と契約を結んでおき、本人の判断能力が不十分になったら、任意後見人が就任する制度です。

 「法定後見」では裁判官が後見人を選びますので、本人や申立人の意向とは違う者が選ばれることもあります。一方、「任意後見」では本人が任意後見人の候補者とあらかじめ契約をしておくことで、本人の希望通りの後見人が就任することになります。ただし、任意後見の場合は、必ず「任意後見監督人」(専門職)が付けられますので、監督人に定期的に報告をしなければなりませんし、監督人の報酬も発生いたします。

 後見人は、本人のために施設や病院との契約を行ったり、財産の管理を行っていくことになります。

2.家族信託と成年後見制度の違い

(1)それぞれの制度の目的

 家族信託で、信託財産から利益を得る人のことを「受益者」と呼びます。家族信託は、この受益者のために財産管理をすることになります。家族信託では、財産を託す人(委託者)が受益者になるのが基本形です。委託者以外の者を受益者にすると贈与税が課税される可能性があるので、あまり行われませんが、委託者以外の者を受益者とすることも可能ではあります。

 一方、成年後見制度では、成年後見人は本人の保護のために財産管理を行います。従って、本人が使い切れないほどの財産を持っていたとしても、生前対策で子や孫に財産を移すようなことはまずできないと思っておいた方がよいでしょう。

(2)財産管理の方針

 家族信託では、財産を託された人(受託者)が財産の管理を行っていくことになります。受託者がどのような管理をしていくかは、信託契約によって定められます。なるべく現状維持の方針で管理させるようにしてもよいし、信託契約に定めれば、売却・購入といった積極的な運用をさせることも可能です。

 成年後見制度では、本人のために保守的な管理をしていくことになります。必要性があれば財産の処分もすることはできます。しかし、新たに収益不動産や株・投資信託などを購入することはできないと思っておいた方がよいでしょう。

(3)財産の管理・処分方法

 家族信託では、委託者から受託者へ名義を変更して受託者が財産管理をすることになります。

 成年後見では、後見人は、本人の代理人という立場で財産管理をします。財産の名義は本人のままです。

(4)対策できる時期や開始時期

 家族信託では、本人の判断能力がある内でないと行うことができません。

 成年後見(法定後見)では、本人の判断能力が低下してから、家庭裁判所に申し立て後見人等を選任してもらうことになります。

(5)コスト

 家族信託は、専門家に頼んだ場合、最初の設定時に費用がかかります。不動産がない場合でも、最低30万円はかかると思っておいた方がよいでしょう。財産額に応じて費用は高くなるのが一般的です。

 成年後見(法定後見)では、後見人の報酬が発生する場合があります。親族が後見人になって報酬の請求を行わなければ報酬は発生しませんが、専門職(司法書士、弁護士など)が後見人になった場合は、財産額に応じて月2~6万円程度の報酬がかかりますし、不動産の売却や遺産分割を行った場合は更に報酬が加算されます。

3.家族信託のメリット・デメリット

(1)家族信託のメリット

 家族信託のメリットとしては、以下のようなものがあります。

①本人の意向に沿った柔軟な運用・管理ができる。

 成年後見人では不動産を買ったり、株式の運用をしたりということはできませんが、家族信託では可能です。ただし、株式の運用については、どの証券会社でも家族信託の口座を開設できるわけではないので、事前に調べる必要があります。

②遺言のように財産を受け継ぐ人を決めることができる

 当初の受益者が亡くなった場合に、信託された財産を受け継ぐ者を指定することができます。信託を終了させて信託契約で指定した者に財産を引き継ぐ場合と、信託を継続してあらかじめ定めておいた者に受益者を変更する場合とがあります。

③成年後見よりもトータルのコストが安い

成年後見で専門職が就いて毎年の報酬を払う場合と比較するとトータルのコストが安い場合が多いです。ただし、これは財産の額、成年後見人の就任期間の長さにもよりますので、一概には言えません。

メリット・デメリットについては、以下のリンクの記事もご参照ください。

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(2)家族信託のデメリット

 家族信託のデメリットとしては、以下のようなものがあります。

①受託者は身上保護をすることは認められていない

 家族信託は財産管理をする制度ですので、身上保護(介護・福祉サービスの利用契約や施設入所・入院の契約締結などをすること)が必要となる場合は、別途任意後見契約をしておく必要があります。

②認知症が進んだ後では家族信託の契約ができない

 家族信託を行うには、契約をしなくてはなりません。認知症等により契約を理解できなくなってからでは家族信託を行うことができません。

4.家族信託を選択した方がよい場合

(1)裁判所や第三者に関与されたくない

 成年後見では裁判所(もしくは後見監督人)の監督下におかれますし、親族でない専門職が選任される場合もあります。

(2)積極的に資産運用を行いたい

 賃貸用のアパートやマンションを持っている方や株式等の運用をしている方で、今後も積極的に資産運用を行いたい場合は、成年後見では行えることが限られますので、家族信託の方がよいでしょう。

(3)コストを抑えたい

 家族信託は最初にある程度のコストがかかりますが、成年後見で専門職が後見人に就いて数年間継続した場合と比較すると、ランニングコストは低く抑えることができる場合が多いです。見積書を徴収するなどして、費用比較をしてから決めましょう。

(3)次の代までの相続人を決めておきたい

 信託契約書に定めておくことによって、受益者が亡くなった場合に信託を終了させて、信託されていた財産を引き継ぐ者を決めておくことができます。遺言のような機能なので、遺言代用型信託などと呼ばれます。財産管理機能+遺言機能というわけです。

 さらに発展して、最初の受益者が亡くなっても信託を終了させないで、次の受益者を指定しておくことができます。例えば、委託者兼受益者の父が死亡した後は、その妻が受益者になり、妻が亡くなったら、子を受益者にするというような場合です。これを後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託といいます。これは遺言ではできないことで、家族信託ならではの機能です。

5.成年後見制度のメリット・デメリット

(1)成年後見制度のメリット

  • 専門職に財産管理をしてもらうことができる。
  • 身上保護も行うことができる。
  • 家庭裁判所や後見監督人によるチェックが受けられる。

(2)成年後見制度のデメリット

①途中でやめることができない

 成年後見制度は、一度開始したら本人が亡くなるまで続きますので、途中で辞めることはできません。もちろん、病気などの理由により後見人を辞任することはできますが、その場合は次の後見人が選任されることになります。

②法定後見では、親族が後見人になれないこともある。

 任意後見人は、契約で定められた者が就任するのでよいのですが、法定後見の場合は、親族を候補者として申し立てたとしても、、家庭裁判所が専門職を選任する場合があります。

③専門職が選任された場合は、報酬が発生する。

 法定後見の報酬は家庭裁判所が決定します。財産額に応じて月2~6万円が目安です。また、不動産の売買や遺産分割協議などを行った場合には、その分報酬が加算されます。

6.成年後見制度を利用する場合

(1)財産管理以外にも身上保護が必要

 認知症により自ら判断することができなくなった場合は、成年後見制度が必要となるわけですが、同居の子がいるような場合は、成年後見制度の利用なしでもなんとかなっているケースが多いです。しかし、子供がいない方や、遠くにいるなどして世話になることができない場合は、成年後見制度を利用する必要性が高くなりますので、身上保護を行うことができる成年後見制度を選択することになります。

(2)専門職に財産管理を任せたい

 財産管理は親族よりも専門職に任せたいという方もいらっしゃいますし、任せられる親族がいない場合もあります。そのような場合は成年後見制度を利用することになります。

 家族信託を専門職にやってもらうことはできないのか、と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。信託業法の規制により、弁護士や司法書士などの専門職が受託者になることはできないことになっています。

7.家族信託と成年後見制度の併用はできるのか

 家族信託と成年後見制度は、併用することができます。むしろ、併用する方が望ましいともいえます。

 実際に全財産を信託しようとしても、年金は受託者の口座へ振り込んでもらえませんので、年金の受給口座は残ってしまいます。したがって、家族信託で全ての財産をカバーすることはできません。

 また、身上保護の機能は家族信託にはないので、任意後見は別途必要になります。

8.まとめ

 家族信託には身上保護の機能はありませんので、万全な認知症対策を行うためには、家族信託と任意後見制度の両方を準備しておくことが理想です。コスト、メリット、デメリットを並べて検討をするとよいでしょう。なかなか一人で考えるのは大変だと思いますので、専門家の相談を受けることをお勧めいたします。

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