認知症で銀行口座が凍結された場合、家族信託やその他の方法による対策について

2021/5/29

2021/08/27

この記事の監修

齊藤潔

さいとう司法書士・行政書士事務所
司法書士・行政書士・民事信託士
齊藤潔

開業以来、一貫して相続・成年後見など家族に関する法務に携わる。
家族信託や遺言など生前からの対策が必要な方への支援を行っている。

Contents

1.はじめに

認知症などの理由により本人が判断能力をなくした場合に、配偶者や子供といった家族が本人に代わって通帳、印鑑又はキャッシュカードを管理するということが行われます。
窓口で本人確認を求められ、本人でないと取引ができないと言われたが、本人は判断能力がなく、連れてきても手続きができないような場合は、事実上の凍結ということになります。
今回は、このような事態に陥った場合の対処方法、事前の対応策について解説していきます。

2.銀行口座の凍結とは

一般に銀行口座の凍結というと、本人が亡くなったときに全ての入出金ができなくなることをいいます。年金などの公的給付も入金されなくなり、公共料金などの自動引き落としもできなくなります。亡くなったら自動的に凍結されるのではなく、銀行が知ったときから凍結されます。
これに近いことが本人が認知症になって判断能力がなくなった場合にも起こります。家族が定期預金の解約など窓口で行わなければならない手続きをしようとした場合に、本人確認を求められ、実は本人は認知症で手続きができないと判明する場合です。一口に認知症といってもその程度は様々ですから、何とか窓口に連れて行って手続きができればよいですが、判断能力の低下が著しく手続きができないとなると手続きができない状態になります。
これが認知症による預金口座の凍結という状態です。

3.認知症になって預金口座が凍結された場合の対応方法

(1)成年後見制度

本人が認知症などにより自分の財産管理ができなくなったときのために、用意されている制度が成年後見制度です。成年後見制度は、本人が判断能力がある内に契約で後見人を準備しておく「任意後見」と、判断能力を失ってから家庭裁判所に申し立てて成年後見人をつけてもらう「法定後見」の2種類があります。
「法定後見」も「後見」「保佐」「補助」と判断能力の程度に応じて三段階に分かれますが、本人が全く財産管理ができないとなると「後見」の類型にあたります。
後見人には、親族もしくは専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士)が選任されることになります。申立書に候補者を書く欄がありますのが、親族が自らを候補者として記載しても状況によっては家庭裁判所が選んだ専門職が選任される場合もあります。
成年後見人が就任すれば、預貯金の引き出しなどは正式な代理人として成年後見人が行うことができます。
成年後見人は「本人のために」財産を守ることが使命になりますので、厳格な支出管理が求められます。例えば、資産に余裕がある親が子や孫達と会食する場合に、全額親が負担するといったことはよくあると思いますが、親が認知症になって子が後見人になった場合は親の分と子や孫の分はきちんと分けて支出することが求められます。
お金の入出金は全て帳簿で管理して、毎年家庭裁判所へ報告することになります。

(2)生活費、入院や介護施設費用等であれば下ろせる場合もある

生活費、入院や介護施設費用等であれば、預金を下ろせる場合もあります。施設費などの請求書を銀行窓口に持参して相談して、銀行が認めてくれれば、預金を引き出すことができます。成年後見制度を利用するのが原則ですから、それまでの例外的な措置になります。一部の金融機関では以前からこのような対応をしてくれることがありましたが、2021年2月18日に一般社団法人全国銀行協会が新たな指針を発表したことで、全国の金融機関に広がっていくものと思われます。

4.認知症になる前に備える方法

(1)家族信託

家族信託は認知症対策にとても有効です。例えば、父が認知症になっても預金凍結などが起こらないように息子にお金の管理をまかせることができます。父を委託者、子を受託者と呼びます。
受託者(子)は預かったお金を自分の財産とは完全に分けて管理することになります。具体的には「委託者〇〇受託者△△信託口」というようにはっきりと信託財産である旨を明示した預金口座を開設してお金を管理します。このような口座を「信託口口座」と呼びます。このような口座を開設できない金融機関もありますし、事前審査が必要な場合もありますので、前もって確認する必要があります。
預金の引き出しなどは受託者(子)が行うことになりますので、委託者(父)が認知症になったとしても問題はありません。

(2)任意後見

契約により本人の判断能力が不十分な状態になったとき財産管理をしてくれたり、施設や病院との契約などをしてくれる人を予め決めておくことができる制度です。信託しなかった財産については、信託の効果が及びませんので、場合によっては家族信託と併用して任意後見契約もしておく必要があります。

(3)銀行等の代理人登録

本人が判断能力がある内に、銀行等にお子様などを代理人として登録しておくと、病気などで本人が窓口やATMに行けなくなっても、代理人が本人に代わって預貯金の引き出しができるようになります。代理人になれる人は2親等以内の親族に限るなど各金融機関のルールで限定されています。

(4)信託銀行の商品

信託銀行の商品にも代理人が出金できるようにするものがあります。親族(3親等内など限定)の他、弁護士・司法書士も代理人になれたり、家族が口座の入出金を確認できたりする機能があったり、(3)の代理人登録よりも優れている面もありますが、信託銀行に払う手数料のコストがかかるのが難点です。

5.まとめ

認知症による口座凍結がされた場合の対応方法、認知症になる前から備えておく方法について解説いたしました。
このような問題が将来起こる可能性がある場合は、ご本人が元気な内に一度専門家に相談しておくことをお勧めいたします。

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