家族信託を開始するまでの手続きの流れを解説
2021/6/20
2021/08/27
Contents
1.はじめに
家族信託をこれから考えたい方向けにどのような手続きが必要なのかがわかるように手続きの流れをご説明いたします。
自力で家族信託を行おうと考えている方だけでなく、専門家に依頼するけれど、手続きの流れを確認したいという方にも参考にしていただければ幸いです。
2.家族信託を自力で行うか、専門家に依頼するか
最初に考えなくてはならないのが、家族信託を自力で行うのか、専門家に依頼するのかです。大抵の方は、専門家に相談し、提案を受けて、検討して、依頼しているのだと思いますが、自分で色々と調べて専門家の力を借りずにやりたいという方もいらっしゃいます。そこで、メリット・デメリットを考えてみましょう。
(1) 自力のメリット
①お金の節約になる。
専門家報酬を支払わなくて済みますので、費用が安くすみます。自分で信託契約書の案文を作って、専門家にチェックしてもらうという方法も節約になると思いますが、対応してくれるかどうかはそれぞれの専門家に問い合わせてください。
② 自分のペースで考えることができる。
専門家に依頼した場合はスケジュールを決めて手続きを進めていくことになりますが、じっくりと考えたい場合は、一般の方向けの本も多く出版されていますから、時間的余裕がある場合は、まずは自力で勉強するのもよいでしょう。
(2) デメリット(リスク)
①思わぬ税金がかかる可能性がある。
信託の内容によっては、贈与税など思わぬ税金がかかる可能性もあります。家族信託に詳しい税理士のチェックを受けることをお勧めします。
②相続問題の原因になる可能性がある
相続人の遺留分を侵害するような信託をしてしまうと、場合によっては信託が無効になってしまうこともありえます。
③専門家が関与しないと口座開設できない場合がある
そもそも信託口口座を開設してくれる金融機関が少ないわけですが、専門家の関与があることが必須の条件になっている場合もあります。
④時間切れになる可能性がある
そのうちやろうと思いつつ、認知症などの病気により判断能力がなくなってしまったり、亡くなってしまったりして何もしないままになってしまう可能性があります。比較的簡単にできる遺言でさえ、このようなケースが多いのですから家族信託であればその可能性が高いです。
3.家族信託の内容を考える(設計段階)
いきなり契約書にしようとすると、文字量が多くて大変ですので、家族信託の骨子のようなものを作るのがよいでしょう。以下のようなことを決めていきます。
(1) 家族信託の目的
何のために家族信託をするのかは重要なポイントです。以下のようなものが考えられます。
- 認知症などで判断能力を失った時に財産の管理を任せたい
- 自分が死んだ後も、障害のある子の生活が成り立つようにしたい。
- 自分の相続人だけでなく、それ以降の相続人も決めておきたい。
(2) 委託者、受託者および受益者を決める
信託をする上で必要となる3人の当事者です。信託契約の場合は、委託者と受託者との契約により家族信託が成立します。
①委託者
財産を所有しており、財産の管理を託す人です。
②受託者
財産の管理を託される人です。信頼できる家族がいないことには家族信託は利用できませんので、財産を託すにふさわしい人がいるということが家族信託には不可欠です。
③受益者
信託された財産から利益を得る権利のある人です。契約によって信託する場合は、当初は委託者が受益者を兼ねることがほとんどです。遺言によって信託する場合は、委託者が亡くなってから信託が開始しますので、委託者以外の者が受益者になります。
当初の受益者が亡くなっても信託を終了させず、次の受益者を定めることもできます。これを「二次受益者」と呼んでいます。
(3)信託する財産を決める
現金、不動産など信託する財産を決めます。委託者の財産の全部を信託する必要はありません。自由に決めてよいのですが、信託できないものもあります。その代表例が委託者名義の預金口座に入っているお金です。銀行の預金口座は譲渡できないことになっており、譲渡できないものは信託できません。お金を信託する場合は、預金口座から引き出してから信託することになります。
(4)信託の終わりを決める
信託がいつまで続くのかは決めておく必要があります。
一番シンプルなのが「受益者が死亡したとき」に終了するという定めです。
永続させることはできず、受益者連続型信託で、数世代先の受益者まで定めたとしても、「30年ルール」と呼ばれるものがあります。
「信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間」(信託法第91条)とされており、30年経った後は、1回だけしか受益権の承継が認められません。
(5)残余財産を取得する人を決める
信託が終了した場合に、信託された財産を取得する人を決めておく必要があります。これを「残余財産帰属権利者」などと呼ばれています。本人の死亡により信託が終了する場合は、遺言と同じような機能があります。
(6)第二受託者や受益者代理人も用意しておく
受託者が亡くなったときに、次の受託者を定めておくとよいです。また、受益者が認知症などにより判断能力が無くなったときのために、受益者代理人を定めておくこともできます。
(7)家族で話し合いをしておく
できる限り、委託者の相続人になる家族には説明しておいた方がよいでしょう。
4.3つの組成方法
家族信託には3つの方法があります。信託契約によるものがほとんどですが、一応確認してください。
(1)信託契約
委託者と受託者とで信託契約を行う方法で、最も一般的な方法です。
(2)遺言
委託者が遺言書に信託する旨記載する方法です。単独で行うことになります。委託者死亡後に信託が開始することになります。
(3)自己信託
委託者が自ら受託者になります。そのため、契約で行うことができず、信託宣言という形をとります。公正証書によって作成します。
5.家族信託を実行する(契約書作成から信託開始まで)
家族信託の設計ができたら、それを書面化して成立させます。以下は信託契約の場合です。
(1)信託契約書の文案を作成する
家族信託の設計をもとに、信託契約書の文案を作成します。専門書から近い事例の文案を探して、それをもとに信託契約書の文案を作成します。こういうことが苦手な場合は専門家に依頼した方がよいでしょう。
(2)必要なチェックを受ける
金融機関によっては、信託口口座を開設するためには、事前に契約書のチェックを受ける必要があります。これは公正証書にしてからでは遅いので、その前にチェックを受けます。
ここまで自力で行ったきた場合は、弁護士や司法書士などの信託の専門家のチェックを受けておくとリスク軽減になります。
(3)信託契約書を公正証書にする
信託契約書は公正証書にしておくことをお勧めいたします。
公正証書にしていないと口座開設ができない場合もあります。
委託者が高齢の場合は、本人の意思で信託しようとしているかどうか確認してもらえますし、契約書の原本の保管もしてもらえます。きちんと契約書として成立しているかどうかのチェックはしてもらえますが、家族信託のコンサルティングのようなものは期待できないと思っておいた方がよいでしょう。
(4)不動産を受託者の名義に変更する(信託登記)
信託の勉強をするだけでも結構な時間がかかりますので、不動産登記は司法書士に依頼してしまう方がよいと思いますが、これも自力で行いたいという方は、信託登記の専門書を買ってチャレンジしてみてください。
(5)金銭を信託するための銀行口座を開設する
信託口口座を作ってくれる金融機関でも、事前審査や、専門家の関与、公正証書で契約書を作成しなければならないなど、口座開設の条件がありますので、あらかじめ確認しておきましょう。
(6)信託による財産管理の開始
信託財産となるお金を信託用の口座へ送金してもらい、財産管理を開始します。アパートなどを信託した場合は、家賃の振込先を変えてもらうなどの手続きが必要です。
6.まとめ
家族信託の手続きの流れを説明いたしました。最初から専門家に相談してもよいですし、まずは、自分でできるところまで考えてみるのもよいでしょう。家族信託の活用をお考えの方の参考になれば幸いです。