家族信託は相続税対策になるのか?家族信託でかかる税金や相続税対策の注意点について
2021/11/22
2021/11/24
Contents
1.はじめに
(1)家族信託とは
家族信託とは、財産をお持ちの方が、その財産を信頼できる家族に託して、自分の代わりに管理運用してもらう仕組みです。
(2)相続税対策と相続対策
相続税対策は重要ですが、相続税対策は相続対策の一部にすぎませんので、視野を広げて、まずは相続対策について確認しておきましょう。
相続対策は、次の3つの問題に分けて考えることができます。
①資産承継の問題
誰にどの財産を相続させるかという問題です。いわゆる「争族」にならないようにすることが第一です。家族信託や遺言などを行うとともに、遺留分対策などを考えます。
②相続税対策
相続税対策は、納税資金を確保するための対策と、支払う相続税の税額を抑えるための対策に分けられます。相続税がいくらかかるのかをシミュレーションしてみるところから始まり、納税資金があるか、節税対策が可能かを検討します。
③資産凍結の問題
認知症などによる預貯金の凍結問題や、不動産などの財産管理ができなくなることを防ぐための対策です。既に認知症で判断能力が低下してしまっているのなら、成年後見制度を利用して家庭裁判所に成年後見人をつけてもらうことになりますが、お元気な内に対策をしておけば、家族信託など選択肢が広がります。
2.家族信託で相続対策するメリット
家族信託で相続対策をすると以下のようなメリットがあります。
- 認知症などによる資産の凍結を回避することができる
- 本人の意向に沿った財産管理を行うことができる
- 遺言と同じような機能がある
- 複数の世代への資産承継を決めておくことができる
- 不動産などの共有問題の対策になる
- 倒産隔離機能がある
家族信託のメリットについては次の記事にまとめていますので、ご参照ください。
3.受益者が対象となる税金
(1)贈与税
信託を行うことによって利益を受けるのは受益者ですので、贈与税がかかるかどうかは、受益者が誰かということに着目して判断します。通常、家族信託では、「委託者」(=財産を託す人)が、「受益者」(=信託の利益を受ける人)になります。この場合、実質的な財産の移転がないので、贈与税はかかりません。委託者と受益者が異なる場合は贈与税の課税対象になります。
(2)相続税
①遺言による信託をした場合
まず、遺言による信託がなされた場合は、遺言の効力発生時に委託者から受益者に遺贈がなされたものとみなされて相続税の対象になります。信託された財産は、相続財産ではありませんが、相続税の課税上は相続財産として扱われます。(これを「みなし相続財産」といいます。)例えば、父Aが遺言書に自分が亡くなったら、その遺産の全部について、長男Bを受益者、二男Cを受託者として信託するものとしておいた場合には、父が亡くなったときは、長男Bが相続税の課税対象になります。
②受益者死亡により受益者の変更があった場合
次に、受益者が死亡したことにより、受益者の変更があった場合にも、相続税の課税対象になります。委託者兼受益者であった父親Aが亡くなり、長男Bが次の受益者になった場合は、長男Bが相続税の課税対象になります。
③受益者死亡により信託が終了した場合
最後に、受益者の死亡により信託が終了した場合は、残余財産を取得する者が、死亡した受益者から遺贈を受けたものとして、相続税の課税対象になります。
(3)譲渡所得税
① 家族信託をした場合
委託者から受託者(=財産を託される人)に名義が移転しますが、この場合は、譲渡所得の対象にはなりません。
譲渡所得税の対象になるのは、次の場合です。
② 信託財産の不動産を売却した場合
譲渡所得が発生している場合は受益者に課税されます。
③ 受益権を売却した場合
受益権を売却すると、信託財産の構成物全てを一括して譲渡したものとして扱われ、譲渡所得が発生している場合は課税対象になります。
(4)信託期間中の所得税
信託財産からの賃料や配当などの所得については、受益者の所得として課税されることになりますので、受益者に課税されます。
4.受託者が対象となる税金
(1)登録免許税
不動産を信託する場合は、不動産登記申請をして名義変更をすることになり、その際登録免許税がかかります。固定資産評価額に対して、土地の場合は1000分の3、建物の場合は1000分の4の税率で税金がかかります。
(2)固定資産税
不動産を信託した場合は、毎年固定資産税が課税されます。これは、登記名義人である受託者あてに課税されます。もちろん、受託者が個人で負担するわけではなく、預かっている信託財産の中から支払をすることになります。
【補足】家族信託に関する税金について
(1)家族信託の委託者には課税されない
家族信託の委託者には課される税金はありません。ただし、委託者が受益者を兼ねる場合には、受益者として税金がかかることになります。
(2)不動産取得税
信託設定時においては、委託者から受託者に不動産登記の名義変更をしても、不動産取得税はかからないことになっています。
5.家族信託は相続税対策になるのか
(1)家族信託での節税対策はほぼできない
結論から言いますと、家族信託を利用することによる直接的な相続税の節税効果はありません。委託者兼受益者が亡くなれば、信託財産も相続税の課税対象になります。
家族信託は、認知症対策や財産の継がせ方について自由な設計をすることができますが、実質的な所有者である受益者に課税されるのが原則です。ですから、当初の受益者が亡くなって、その家族が新たな受益者になる場合も、家族信託をしていない場合と同様に相続税が課税されます。
ただし、不動産を購入することによって相続財産の評価額を下げる手法を取りたいときに、本人が認知症により契約をすることができなくならないように予め家族信託をしておくなど、相続税対策を行うために家族信託を利用することはできます。
(2)家族信託を使えば贈与税がかからずに信託財産の管理を託すことはできる
自分の老後を支えてもらうために不動産やお金を親族に贈与してしまうケースを目にすることがあります。この場合は贈与税に注意しなければなりません。
委託者が受益者になる家族信託であれば、受託者に名義が移転することになりますが、受託者に贈与税はかかりません。
6.家族信託で相続対策する場合の注意点
(1)様々な場面で税金に注意する必要がある。
家族信託で財産を託す場合は、信託の設定時、受益者の変更時、信託の終了時などの各場面で税金がかかる可能性がありますので、家族信託に精通した税理士にどのような税金がかかるのか、きちんとチェックしてもらうことが大事です。
(2)遺留分にも注意する必要がある
家族信託は、遺言のように相続する者を指定することできますが、遺留分を侵害された相続人から遺留分の請求をされる可能性があります。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に、最低限の取り分を確保する制度です。したがって、遺留分を侵害しないようにするか、遺留分の請求をされてもよいように準備しておくなどの遺留分対策をしておく必要があります。
(3)受託者の責任について
家族信託は、信託財産を積極的に運用することできる長所がありますが、資産運用は必ずしもうまく行くものではありません。信用できる親族であっても資産運用の経験や能力のない場合は、運用方法を限定したり、資産運用の専門家のサポート体制をつくっておくなどの配慮が必要です。